「理系的文書の困難性」へのツッコミ。

理系的文書の困難性 | All you need is kodamatic

例を引いてみます。私が最近読んでいる「入門ソーシャルデータ第2版」は翻訳本です。書いている内容はとてもおもしろいのですが、本題に入るまでの導入部が長くてごちゃごちゃしている。一言で言うとすごくキャラが立ってるのですが、一方で悪い文の典型でもあります。統計で正規分布を使うことの重要性についてのコラムですが、冒頭を引用します。

正規分布は、統計のもっとも基本的な概念の一つである。正規分布は、その形からベル曲線と呼ばれることも多いが、「正規」分布と呼ばれているのは、他の分布の比較対象(あるいは基準)となることが多いからだ。

頭にすっと入りますか。たった2センテンスだけどこれです。この本を読んでるんだから俺偉いよ。まず第一センテンス。くどいから直そうかとも思いますが(あえて直すと、「正規分布を用いるのは統計において一般的である。」)、このセンテンスまるまるなくても困りません。次のセンテンス、ベルの話も無駄といえば無駄ですがこれは読んで楽しいのでOK。問題はそのあとの「呼ばれることも多いが」。「多さ」関係ある?関係ないよね。じゃあ、構文として使っているなら「〜多いが〜ではない」となるのが正しい。この文脈だと「実はベル形になることは殆ど無い」と来ないと座りが悪い。なので、「多い」はなくて良い言葉。続く文では何が正規(英語ではNomal)なのかがわからない。比較対象だからノーマルというは変で、比較対象は「中心分布」みたいな名前の説明だし、基準も、言い直しているだけで正規・基準の両方について何も言っていない。この文もいらないっぽい。

理系的文書の困難性 | All you need is kodamatic

統計学の基本概念、みたいなものの説明は、「分かる人にしか読めない文章」になりがち。あと、理系テキストの翻訳文は、英語直訳で誤魔化す所あるし。


第一センテンスの「正規分布は、統計のもっとも基本的な概念の一つである。」は、基本的というのはもしかしたらfoundamentalとかそういう原文なんじゃないかと推測する。
実際には、「重要な」というような訳語の方が望ましいんではなかろうか。
と考えてから、ググってみた。

http://chimera.labs.oreilly.com/books/1234000001583/ch04.html」に、

Is being "normal" important?

One of the most fundamental concepts in statistics is a normal distribution. A normal distribution, often referred to as a "bell curve" because of its shape, is called a "normal" distribution because is often the basis (or norm) against which other distributions are often compared.
:

とあり、これをGoogle翻訳にぶち込むと

統計における最も基本的な概念の1つは正規分布である。多くの場合、他のディストリビューションは、多くの場合、比較される基礎(またはノルム)それに対してであるため、多くの場合、その形状の「ベル曲線」と呼ばれる正規分布は、「通常」のディストリビューションと呼ばれています。

Excite翻訳だと

統計の最多の基本概念のうちの1つは正規分布です。
その形のために「正規曲線」としばしば呼ばれた正規分布は、「正常な」分布と呼ばれます、ので、多くの場合他の分布がしばしば比較される基礎(あるいは標準)です。

となる。おおよそ推測はあってそうだ。



統計学で用いられる分布には、それぞれ関連があるが、その中でも格別に重要な確率分布が正規分布である。中心極限定理大数の法則などでも登場する。特殊な分布であったとしてもマクロでは正規分布になったりもする。
一般的に使われる、とかよりも、「重要」「キー概念」という感じか。
ま、fandamentalとか翻訳しにくいもんだけど。


また、「曲線の形からベルカーブとしばしば記述されたりするが」(ベルカーブっつったらだいたい正規分布の曲線の事なんだけどさ)、というような事を間に挟んでいる。
「○○が多い『が』××ではない」というのは必然ではなく、接続助詞の「が」は逆接でも順接でも使われる。
逐語訳に近い翻訳を読んでいるとよく見かける。それは、日本語とは文の区切り方・単語の現れる順序が違う英語を、無理に助詞を使ったりして文章を組み立てているからだろうと考えている。


日本語では正規分布と呼ばれるものは、英語ではNormal distributionであり、他の分布を説明するのにも基準として使われるような分布であり、それ故「Normal」(他はまあAbnormalとはまとめないが、普通ではないと考えるわけで)、と説明されている。
WikipediaのNormal distributionのHistory辺り読むともう少し知識が手に入ると思う。


元の翻訳文が日本語としてなめらかではないのは確かだが、原文の伝えたい意味を乗っけられてないなら添削としては不足であるし、そこから導き出されている結論も残念な事になっている。


理系の教科書みたいな文章の書き方には確かに問題があって、情報密度とかが半端なく、ダラダラ読むには向いてない。翻訳もそのせいでかなり日本語が不自由になりやすい。
だが、娯楽書ではない。正確さを抜かした批判には、ボクは意味を見出せない。