福島原発の処理水のお話で、ちょっと理解の為の補助線を少し。

filinion.hatenablog.com

この界隈の言葉の定義に注意。

今の段階での定義において、「ALPS処理水」は、「ALPSでトリチウム以外の核種を基準値以下にした」水の事ですが、実は公式には2017か2018年頃から定義として「処理途上水」が追加された上でそうなってます。
この「処理途上水」は、「ALPSで処理されてタンクには貯められているが、ALPSで処理しきれなかったもの」で、タンクに貯められている6割だったか7割を占めています。
それまで特には言われてなかったのですが、「ALPSの処理能力の限界を超えた時に、タンクに貯める事を優先して、甘い状況で貯められたもの」という説明が後でなされます。

薄めて捨てるのありかなしか。

 基準値を満たしてないものを、
「海水で薄めたら基準値以下になったから海に捨ててオッケー!」
 って、工場排水とかでやったら一発で操業停止になるやつだと思うんですが。
 それを政府が率先してやっているの、酷いインチキなのでは?

まあ、そう考える人は多いと思います。
排水の希釈に関して - 環境Q&A|EICネット


ただ、実際の工場で、「薄めて捨てる」という事をあまりされないのは、あまりにも現実的ではないから、という側面がある為、あまり他事例で参考になるものはないと思います。
100倍希釈だと99倍、希釈で廃液内の成分濃度を低くするというのはかなりの無茶であり正直他の重金属汚染とかなら絶対に沈殿処理とかをかけるところなんです。


問題は、トリチウム三重水素というものの問題で、確かに普通の水素の三倍の重さを持っているという事ではあるのですが水素があまりにも軽いため、化学的性質がほぼ変わらず、水の構成要素である場合でも、ほとんど酸素の影響が大きく、トリチウム含む水のトリチウム濃度を上げるという操作も全然コストがかかりすぎるというところで、それくらいしか手がないというところになります。


トリチウムの毒性は高いのか。

放射能として高いのかというと、いやまあ全然問題ないレベルのものではあります。ただ、明確な安全性というものが分からないので、害が出そうな値より百分の一とか千分の一で規制するように濃度を設定したりしている訳で、設定されている濃度はほとんど検出限界に近いです。
もうひとつ言っておくとすると、我々、低濃度放射線の影響があんまり分かりません。原爆なんかで人間のデータはある程度あるものの、その放射能被害の情報としてはあくまでもα線、実態としてはこれヘリウムの原子核部分なんですが、それくらいしか分かりません。β線、これは電子とか陽電子陽電子の場合にはβ-とか言われるんですが)ですが、その影響は数千分の一、電荷もあるので表面上の影響しかないかと思いますし、それも原子炉内部のような状況であれば影響はあるでしょうが、半減期は12年なのでその物質の量に比べても放射線を出さない、わりと「生物濃縮されないと影響は少ない」だろうと思います。
ただ、こういう話を丁寧にしている人というのはあまりいません。


ちなみに、薬とかだと安全性をもう少し詳しく調べられますが、それは少量でもカネになるというところと、今、例えば分子標的薬って、ホルモン出すところの補酵素とかごく少量でも体内のバランスを変える薬というところもあって、結構動物の種類によって違いがある、下手すると致命的な結果をもたらすからという事があります。
トリチウム放射線というところでは、温泉とかのラドンと比べられなくもないですし、β線だから特殊な効果がというのもあまり考えなくていいと思います。

処理水の海洋放出のプロセスには不安はある。

一つ、ALPSを、処理途上水の処理に流用する事です。一応、繋ぎ変えのプロセスがあるんですよね。吸い上げた排水を処理してタンクに貯める場合と、タンクからの水を処理して海洋放出用のところに流す場合、今簡単に言って切り替えます。
仕方ないところではあるんですが、ALPSを効率よく使うという事では必要なんですが、これって、手順上は可能、装置を見ても可能なんですが、手順上危ういところがあるわけですよ。そこに関してのフェイルセーフとか全然説明されてないなって思います。


一応ですが、ポンチ絵からでも多分これこうじゃないかと推測しているところはあります。パイプで繋がっているけど、結構処理はバッチ処理的に動くだろうなとか。フロー的に作ると、いざという時に止めるのがかなり難しいのもあって、まあそれは仕方ないんですが、ちゃんと作業の監視手順をある程度の自動化をしたり結構工夫しないと、数年後までに事故は起きると思います。
ヒヤリハットは結構あるものです。
そういうところも含めて正直ベースに言わないと、「実害はおそらくないのに、操作ミスがあった」という事を変に公表しなかったりして、「手順ミスである事がリスクとして高く見積もられちゃう」話に繋がるかなと思います。予め、そのリスクの重み付けも含めて公表していれば、「説明どおり」で済むんですが。
そう、ここの「説明」において、「安全と言わないと駄目」みたいなそういう形の説明に終始しているのがかなり問題で、「どうやって安全を担保、作業の確からしさを担保してるの」というところで、ちゃんとした説明が出て来てないんですよね。

余談

安全神話って、「説明をしない」というところから始まった気がしますね。
説明文がいたずらに長くなるのはよろしくない、とは言え、じゃあ書かなくていいという事でもないと思うんですよね。
いやまあ、東電もやってはいる、けど、どういう監視を考えてどう組み立てている、とか、そこに実際の漏洩とかは関係してくるわけでして。


正直、トリチウムの問題より、海洋放出プロセスより、とても大きな問題としてあるのが、福島原発デブリおよびその周辺との漏出・監視体制で。多分こっちの方が今でもかなり注目しておかないといけないものなんですが、今回の海洋放出の中で、なんかスルーされすぎてないか(話題にもナカナカされない)と思うんですよね。
クロソイの件で、今まで海表面に近いところでのサンプリングで確認していたところを、海底に近いところでもサンプリングするようにします!って話も、「今までしてなかったの?」という気持ちでいっぱいでしたし、結構なんというか、トリチウムの扱いに比べて結構雑な気がしてます。