「科学と政治が交差する時、」高齢化した学園都市プロジェクト。

高木浩光@自宅の日記 - 逃げてー!「健康クラウド」ゼロプライバシー特区?(見附市、新潟市、三条市、伊達市、岐阜市、高石市、豊岡市)」を見て。
ひろみちゅ先生がこの適当な「リテラシー」とか「クラウド」に突っ込みいれるのは当然として。


リンク張られたPDF(→http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/sogotoc/sinsei/dai1/111014sinseisho/t24-2_mitsuke.pdf)を見て。


まあ、「中心地を歩行者優先・自動車進入禁止とか自動車速度制限する」のは別にいい。寂れたシャッター街歩行者天国になろうがそんなに歩行者増えないよなあとは思うが、街の活性化とか目的でないなら増えなくてもかまわない。高齢者が多いようだから事故は減るだろう。それはかまわないと思う。
が、その目標に掲げられているのはそんなことではなかった。

ii) 区域設定の根拠
ア) まちづくりに関する区域
伊達市
伊達市の中央に位置する霊山町掛田地区は、概ね2,000 人が居住している地域であるが、中心商店街は空き店舗が目立ち、歩行者もまばらな状況にある。しかし、このエリア内には、商店、医療機関介護施設、道路、公共施設等、歩くための地域資源が存在しており、これら既存の施設を活用することで、健康を基軸としたまちづくりに適している。この現状をふまえ、地区内の一部通りに自動車流入制限をかけるためのライジングボラードを設置し、モデル地区として総合的に整備することでまち中の歩行者数を増加させ、市民の健康づくりにつなげるとともに、中心市街地活性化の一助とするため、当地区に区域設定を行った。当地区には、まち中から通過交通を排除できるバイパス道路も整備されていることから、歩いて暮らす生活圏として整備し、この区域の実証から得られた成果を市全域に波及させることで、健幸都市の実現を目指すものである。

新潟市
新潟市中心市街地に位置する古町地区は、その昔には30 を超える堀が整備され、堀と堀端の柳が新潟を象徴する風景となっていた。現在でも料亭が営業し、芸妓さんが活躍している花街地区でもあり、一部に昔の面影を残している。現在は商業を中心とする中心市街地であるが、平成12 年当時と比較すると、歩行者人口が約17,000人減少しており、活性化が望まれている。そのため、現在この地区につながる下町の通りについて、水路を含む自転車道、歩道を造り、堀のあった湊町の風情を感じられる水辺空間を創出する道路改修工事を施行中であり、さらには公共交通の強化についても検討を進めている。また、地区内に健康づくり事業として「健幸サポート倶楽部西堀ローサ教室」を設け、並行して事業を実施している現状をふまえ、地区内の一部通りにライジングボラードを設置し、自動車流入制限をかけ、歩行者数を増加させ、市民の健康づくりと中心市街地活性化の一助とするため、当地区に区域設定を行った。

三条市
JR 北三条駅南側の三条小学校区は、中心市街地エリアにもかかわらず、当市の高齢化率25.4%に対して、37.5%と高い割合を示している。このことは、中心市街地、商店街の衰退を意味しており、いわゆる「シャッター通り化」が加速している。今後、地域住民の買物をはじめ、日常の生活を支える基本的機能の維持が困難になっていくことが予想されることから、当該エリアをモデル区域として、地域の自然景観、歴史的、文化的資源等も活かしながら、スマートウエルネス三条としてデマンド交通の利便性向上や買物支援サービス等を整備し、高齢化・人口減少社会に対応できるまちづくりの手法を確立していくために区域設定を行った。

見附市
見附市では日本一健康なまちを目指し、平成15 年度に「いきいき健康づくり計画」を策定し、各種施策を推進してきたが、多くの市民が健康に対する正しい知識を身につけ、実践して継続できる環境を整える必要がある。健康に関心が低い住民でも、歩きたくなる歩道や美しい公園等の整備により、自然に体を動かす機会や人との出会いを増やすことができるようになる。以上から全市域を総合特区の区域とした。
また、このような状況を踏まえ、ライジングボラードを設置して自動車の流入制限をかけ、歩行環境を整備し、歩行者数を増加させ、市民の健康づくりと市街地活性化の一助とするための区域設定を行った。

岐阜市
市民の健康度を良くするためには、過度に車に依存した交通体系から徒歩、自転車やバス等の公共交通に自動車を加えたバランスの取れた交通体系に転換していくことが重要であるため、市全域のバスの利便性向上と歩きやすい道路整備を行う。
更に、全市民を対象とした健康教室や、歩きのイベントを行う事により、健康に関する知識を深めると共に、改善した歩行環境を積極的に活用してもらうため、行政区域の全てを対象とした。

高石市
高石市は、11.35k?(内約4 割が臨海工業地帯)と極めてコンパクト、かつ、平坦な地勢であることから、子どもから高齢者まで市域内の移動が容易であるという特性をもっている。また、市域の大半が市街化区域であることから、地域コミュニティも堅固に形成されている。以上から、今般、臨海工業地帯(臨海従業者)を含め、市全域で総合特区に取り組む区域設定を行った。
また、南海中央線の比較的交通量の少ない区間において、一部自動車流入制限をかけることで、ウォーキングロードの利用の一助とするために、本区間ライジングボラードの区域設定としている。

2.指定申請に係る区域における地域の活性化に関する目標、及び、その達成のために取り組むべき政策課題
i) 総合特区により実現を図る目標
ア) 定性的な目標
自律的に「歩く」を基本とする『健幸』なまち(スマートウエルネスシティ)を構築することにより、健康づくりの無関心層を含む住民の行動変容を促し、高齢化・人口減少が進んでも持続可能な先進予防型社会を創る

1.『住んでいるだけで「歩いてしまう(歩かされてしまう........)、歩き続けてしまう」まちづくり』により、健康づくりの無関心層を含む地域住民全体の日常の身体活動量を増加させる(全体を底上げする)ことで、生活習慣病の予防やソーシャルキャピタルの向上等により、地域住民が「健やかで幸せ」に暮らせる社会を実現する。

2.交通権(公共交通等による移動できる、歩いて暮らせる権利、移動権ともいう)の理念を先取りし、公共交通の拡充、利便性向上により、過度に車に依存しなくても生活できる環境づくりを推進する。

3.住んでいるだけで「歩いてしまう(歩かされてしまう)、歩き続けてしまう」まちづくり、というポピュレーションアプローチ(1)
手法を、申請7 市の複数のフィールドで実証することで、日本全国に展開可能な「社会技術」(各自治体がすぐに利活用可能な汎用的なツール)として確立する。

生涯にわたり健やかで幸せに暮らせるまち(健幸なまち:スマートウエルネスシティ)を創造することで、高齢化・人口減少社会の進展による地域活力の沈下を防ぎ、もって、地域活性化に貢献するものである。


目標設定の解説
スマートウエルネスシティ首長研究会(2)(以下、SWC 首長研究会とする)は、これからの高齢化・人口減少社会において各自治体が目指すべき姿を「医学的に健康な状態のみならず、地域において社会参加している」状態とし、それを『健幸』(健やかで幸せな生活)と定義した。
本研究会では、過去2 年間の研究活動により、高齢化・人口減少が進んでも地域住民が『健幸』であるためには、まず、生活習慣病の増加、寝たきりの増加、要介護者の増加等を逓減化することが必要であり、この実現には、地域において多数を占める健康づくりの無関心層を含む地域住民全体へのポピュレーションアプローチにより、地域住民全体の日常の身体活動量の増加(底上げ)が必須であることを認識した。
一方、従来型のポピュレーションアプローチ的な取り組みの延長では、その効果に限界があることが分かっており、海外の成功事例、及び、最新の研究成果に基づき、そこに住んでいるだけで「歩いてしまう(歩かされてしまう........)、歩き続けてしまう」まちづくりを手法とし、現在の過度に車に依存した便利追求型の生活様式から「歩く」ことを基本とした「自律的な」生活様式へ転換することで、日常の身体活動量の増加(底上げ)を実現する。
また、この新しい手法を特定地域の特別な前提条件に依存して実現するのではなく、一般化した仮説と、地域特性に応じた実証パターンの組み合わせとして設計し、都市規模に加えて文化や地域特性の異なる7 市の実証フィールドにおける創意工夫と、筑波大学等による科学的なエビデンスを集約して全国に展開可能な「社会技術」として確立する。


ポピュレーションアプローチ(1)
...高いリスクの住民を対象に絞り込んで対処するハイリスクアプローチに対して、対象を限定せずに地域住民全体へ働きかけることで、地域全体のリスクを低減する取り組み

スマートウエルネスシティ首長研究会(2)
...福島県伊達市新潟県新潟市三条市見附市妙高市、栃木県大田原市茨城県つくば市牛久市取手市、埼玉県さいたま市志木市岐阜県岐阜市大阪府高石市兵庫県豊岡市熊本県天草市、鹿児島県指宿市、福岡県飯塚市大分県豊後高田市 以上 12 府県18 市(2011 年9 月30 日現在)の首長によって構成されるスマートウエルネスシティの実現に向け、自ら実践することを是とする政策研究組織

(強調は自分です)
色々驚くことが多いのだけど、「都市再構成までお金持っているわけではないのに、なんか理想系で語られるとなんともなあ」という所である。


まあ、しかし、こっそりとp.17に書かれている、「対象が7市×1000人」らしいんだけど、その程度の話なら、健康クラウドとか考えてるのは無駄だと思う。


各データ(健保やレセプトなどのデータ)をマッチングかければ・巧いこと情報を結合させれば何か素敵なデータが出来上がると思うんだろうが、そもそも、オートマッチングは厳しい。まあ、それをおいておいても、この手の施策で短期的に効果が出るわけはないのに一年で中間集計とか気が早すぎる。掲げる数値目標(メタボ+予備軍の26%を20%以下にする、ってのを平成28年度に達成するって・・・・・・)も、達成の可能性ってのはなんかまともに検討された気がしないのだが。というか、目標の区別をつけると「なんか健康になったかどうか分からんが、財政は引き締まったぜ」みたいなお話になりそうだ・・・・・・。
評価指数の多さも気になる。評価指数が多いと、「評価指数の選択」がなされても、それに気付かない人が増える。評価指数がデータを見て決められるなら、そりゃ「結果成功でした評価指数上がりました」でも「そりゃデータを見て評価指数が上がったものを、継続的に行えば評価指数はさらに上がるだろう」という話なだけなので。「施策の結果健康になりました」ではなく「施策の結果施策の影響が出ました」にしかならん。自分らで健幸度wとかを決めていれば。


ちなみに、ひろみちゅ先生のところで紹介されていた、パブコメを全文抜き出して書いておく。
多分、この分野に知見のある学者かそのラインに近い人の意見だと思うので、突っ込みが鋭い&多少色眼鏡があると心得て読むとよし。

(1)本提案の基礎にスマートウエルネスシテイ構想があり、その研究グループとして18市が参画しているとあるが、今回の申請はそのうちの7市だけであり、そもそも提案にかかる十分な研究がなされていないのではないか

(2)7市の共同申請でありながら、歩いて暮らせるまちへの再構成は6市のみで内容も異なり、共同申請の意義がどこにあるのか、わからない。

(3)健康クラウドは、最終的に全国展開を想定しているが、特定企業のシステム(e-Wellness)との連携も想定され、また、事業主体者となっている特定企業(開発ベンダ等)の資産となる新システムの開発及び改修費用を税金で賄うこと(競争入札等で開発委託するのなら特段異議なし。また、地元企業であれば地域活性化の意味から理解できるが。)になるだけでなく、他団体への拡大時にも、汎用性の確保に疑問があるため、これらの企業との随意契約となる恐れがある。(今回の健康クラウドの構想は、事業実施形態として特定企業に便宜を図ることになるのではないか。)

(4)29ページの中段にもあるように、個人の医療・検診データやライフスタイルまでもの情報が集約・蓄積される。これらをクラウドシステムとして構築することは非常に危険であり、個人情報の恣意的活用についても払拭できない。(個人情報の取得や利用について市民の理解を得ていない、あるいは、事業着手までに理解を得るのか疑問。現在国で検討中の社会保障・税に関わる番号制度でも、2ヶ年かけて国民向けの説明会を開催し、理解を得ることとしている。そもそもこの様な非常にデリケートで他人に知られたくない個人情報を自治体や大学、民間企業が活用するという構想(特区申請)について、市民はまったく知らされていないし、そのような状況下で税金を投入した事業が進められることに納得できない。
また、医師会や歯科医師会など保健医療関係者や栄養・食育関係者などの参画が想定されていないため、システムから導き出される分析結果の信頼性スポーツ医学分野からの研究・分析でエビデンスと成り得るのか。また、これらのデータがどの様に有機的に関連し、分析可能となるのか申請内容から見えてこない。
過剰にレセプトデータを評価していないか日本医師会の意見から鑑みた場合)。これから研究するでは巨額な税金投入を判断する事業として熟度が足りないと思う。等々)だけでなく、実際の事業進捗にあたっても困難課題(日本医師会の平成22年4月14日付け「新たな情報通信技術戦略の骨子(案)に対する意見」や平成22年7月7日付け「新たな情報通信技術戦略工程表に対する日本医師会の見解」からも、地元医師会などとの合意形成ができるか疑問。)があると思う。

(5)集積・保有しようとする情報量とそれにかかる手間(情報提供側となる医療機関、健保組合などの手間や費用負担を含め)、データの機密性の確保のほか、開発費用などのシステム規模に比較し、ここから得ようとしている分析結果や情報などが貧弱・陳腐で、費用対効果があるとは到底思えない。(いかにもと思わせる申請にあたっての単なる作文?)

さらに、これらの情報は、社会保障・税に関わる番号制度の中で利活用が検討されており、また、開発に当たっても様々な技術が重複することになると考えられるため、二重開発・二重経費となるのではないか。
(その他国の施策として
?i-Japan戦略2015(日本版EHR(仮称)の実現:2015年までに実現すると記述あり。)
?新たな情報通信技術戦略(どこでもMY病院構想の実現:2013年度に第1期サービス提供を工程表で掲げている。レセプト情報等の活用による医療の効率化:2013年度から自治体や保険者が医療の状況把握と質向上に活用することを工程表で掲げている。)
?個人が健康情報を管理・活用する時代に向けて〜パーソナルヘルスレコード(PHR)システムの現状と将来〜
?健康情報活用基盤構築のための標準化及び実証事業などもある。
これらの施策は今どうなっているのか、また、これら国の施策とこの健康クラウドとの関係性もわからない。)

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/sogotoc/sinsei/dai1/111222bosyu_kekka.pdf

自分は、微妙に業種が違うので詳しいことは知らないが、「標準化→風呂敷広げすぎ→項目が増えすぎてテストがままならない→全容を理解できないデータの塊の規約化→いつの間にか実装困難な代物になる」パターンと「標準化→出来るところからやっちゃえ→いつの間にかドメイン限定なシステムになる→他の情報、例えば安全性情報なんかの規約との不整合→ガラパゴス化してどうしようもなくなる」パターンが予想される。
まさか、「個人情報のガイドラインがはっきりしないから特区としてプライバシー無視させろ・同意不要にしろ」という案が出るとは思わなかったが。


ぶっちゃけ、項目が増えれば増えるほど、統計データとしては微妙になる。各項目が独立した変数でなさそうであるし、相互に影響を及ぼす隠れた変数があるのか相互補完的に影響を及ぼしあうのかそのあたりはっきりしづらくなる。
寧ろこれで何かしらの研究結果が出たら、何か考慮漏れがあるとして突っ込んでいくのが正しい使い方だ。こんなに項目を設定したら、対照群を設定するのも骨だよ。当然、対象調査項目以外の項目に関しては差が無いことを立証しなければいけないんだからなあ。無理。ランダムサンプリングで「他要因の影響は偏り無いものとする」というお祈りみたいなことが出来ないよね。